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  • 2026.03.18
  • 授業 教員インタビュー
  • 人材開発・組織開発実践者としてのあり方を探究する 「グループ・プロセスへの働きかけ演習」

「グループ・プロセスへの働きかけ演習」は、「プロセス・コンサルテーション」におけるコンサルタントのあり方を学ぶ授業です。LDC初年度から毎年特別講座として行われていましたが、2025年度からは正規の選択科目となり、2026年2月19日(木)から21日(土)までの3日間、立教大学池袋キャンパスにて行われ、1年次18名が参加しました。担当は組織開発クオリティ・デザイン・ラボ代表の松本加奈子先生(LDC4期修了生)とラーニングジャーニー代表の河合雄也(LDC3期修了生)先生です。

「プロセス・コンサルテーション」とは、コンサルタントが「正解」を提示するのではなく、メンバーが、メンバー同士の対話や関わりを通じて、関係性や相互作用・影響といった目に見えない“プロセス”に気づき、自らよりよくしていくことを目指した関与(働きかけ)を行う組織開発のアプローチです。

組織の成長や適応を妨げているプロセスを改善するためには、組織のメンバー自身が、自分の内側や、人々の間に何が起きているのかについて気づき、その上で行動を選択する必要があります。

人材開発・組織開発実践者としてのあり方である「ユース・オブ・セルフ」を探究するこの授業は、LDCならではのものといえるでしょう。

本レポートでは、初日の午前中に行われた「ユース・オブ・セルフ」の理論的背景を学ぶ授業の様子をお届けします。

 

「プロセスへの働きかけ」を体験から学ぶ

はじめに、河合先生から講座の概要説明やタイムテーブル、安心して対話セッションを行うためのグラウンドルールの案内などが行われました。この講座の大きな目的は、「OD実践者としてクライアントと信頼関係を築き、効果的な支援を提供できるようになること」です。具体的には、①ユース・オブ・セルフに対する意識を高めること ②プロセス・コンサルテーションに対する理解を深めること ③今後の現場での実践への具体的な気づきを得ることが目標です。

LDC3期の修了生でもある河合先生は、「この授業で学ぶことは、今後みなさんがLFPで、クライアントの課題解決を行う際に役に立つものです。この3日間の講座を、よりクライアントに貢献できるように関わるためにはどうすればいいのか、そのヒントを見つけていただけたら、と思います。キーポイントは『今ここ』で起こっていることに気づくこと。人々の間で起こっていること、自分と相手の間で起こっていること、自分の中で起きていること、に意識を向けながらその場の体験から学ぶ、という姿勢を大事にしてください」と話しました。

  

 

「ゲシュタルト心理学」と「ゲシュタルト療法」

次に松本先生からこの講座の中心となる概念である「ユース・オブ・セルフ(自己の活用)」の理論的背景についてレクチャーが行われました。「ユース・オブ・セルフ」は自分自身の感性、捉え⽅、価値観を用いてクライアントや組織に働きかけるあり方を示す概念で、「ゲシュタルト組織開発」に由来するものです。松本先生は、「ユース・オブ・セルフ」とは何かを知る手がかりを得るためには、その基盤となる「ゲシュタルト心理学」および「ゲシュタルト療法」への理解が欠かせないとして、最初のレクチャーではこの二つの理論について概説しました。

「私たちが世界をどう知覚しているか」を扱うのが「ゲシュタルト心理学」です。夜空の星々を線でつなぎ、ひとまとまりの物語や意味を与えた星座として認識しているように、人はバラバラなものをまとめて理解したくなる指向性がある=「全体性」や、騙し絵「ルビンの壺」のように、意識を向けているものごとが「図」となり、それ以外は背景で「地」となり意識できなくなる=「図と地」などがゲシュタルト心理学の基本的な考え方。このゲシュタルト心理学の概念を基盤として発展した「ゲシュタルト療法」は、人が「今、ここ」でどのように体験しているかに注目する心理療法です。問題を分析するよりも、感情・身体・関係性への気づきを深めることで、人が本来持っている自己調整の力を回復させることを目指します。

 

 

 

3領域の「気づき」でチェックイン

ゲシュタルト療法で、人間の継続的な心理的成長のために重視されているのが、「気づき=自覚=アウェアネス」です。松本先生は、ゲシュタルト療法における「気づき」は、内部領域(今ここでの身体で起きている全てへの気づき)、中間領域(思考、・分析・判断の領域)、外部領域(外部世界への気づき)の3つの領域に分けて捉えられていると説明。そして、「みなさんはこれまで、分析や評価、判断をしたり、過去や未来について考えたり、『中間領域』を多く使ってきたかと思います。ですが、プロセス・コンサルテーションにおいて特に意識していただきたいのは『内部領域』の気づきです。せっかくですので、今日は内部領域、中間領域、外部領域という3つの領域を区別しながら『今、ここ』を意識してチェックインしてみましょう」と促しました。

チェックインのために、受講生も事務局も講師も、その場にいる全員が車座になって座りました。そして、一人ひとりが自分自身の「今、ここ」を細かく観察し、言葉にしていきます。「感じていることと考えていること、内部領域と中間領域の区別がうまくできません」「今、心拍数が上っています。少し緊張してドキドキしているのと楽しみでワクワクしているのと半々といった感じです」「すごくお腹が空いている、と気づきました!」など、受講生たちは今感じていること、周囲の様子、体の内部で起こっていることなどを丁寧に語っていました。

チェックイン後は「ゲシュタルト組織開発」「プロセス・コンサルテーション」についてのレクチャーが行われました。ゲシュタルト組織開発を理解する上で鍵となるのが「経験のサイクル」です。「みなさんも喉が渇いたときに水を飲むと思いますが、その際は、①喉が渇いているという感覚に気づき②水が飲みたい気持ちが高まり③実際に水を飲むという行動をとり、④渇きが解消され完了する、といったサイクルをたどります。組織も人もこのように気づきを行動へとつなげる『経験のサイクル』をきちんと回すことができれば、成長や変容が自然に起きる、というのがゲシュタルト組織開発の考え方です」と松本先生。

そして、この授業のテーマでもある「ユース・オブ・セルフ」について、クライアントに影響を与え、「経験のサイクル」がきちんと回るようにするために、自分自身の気づきや感情、価値観などをツールとして用いるものであると説明しました。「といっても、なにかの技法やスキルといったものではありません。自分自身の気づきをクライアントとの関係性の中でどう使っていくのか、コンサルタントがクライアントに働きかける際に持っておくべき態度、価値観、それがユース・オブ・セルフです。ユース・オブ・セルフを教える、ということはできません。ですが、みなさんが実践と内省を通して感じ取るための体験の場をこの授業でご提供したい、と思っています」と話しました。最後にグループ毎の振り返りが行われ、午前中の授業は終了しました。

 

実践を通して「ユース・オブ・セルフ」を学ぶ

1日目午後からは撮影機材が設置された教室に移動し、「グループ・プロセス観察実習」が行われます。受講者は自分たちの対話セッションの様子を、録画を見ながら振り返り、グループ内で何が起きていたのか、自分の中には何が起きていたのか、グループ・プロセス、自己プロセスを観察。「気づき」から、働きかけの可能性について考えます。2日目、3日目は、テーマに基づいた対話と、その対話のプロセスへの働きかけを行うセッションを、役割を交替しながら繰り返し、「グループ・プロセスへの働きかけ」について深めていきます。
受講生は3日間を通して、グループでの対話や、その場への関与を重ねながら、「ユース・オブ・セルフ」を実践的に学んでいきます。自分自身と向き合い、他者と関わる中で、人材開発・組織開発の実践者としての「あり方」を深めていくこの授業は、個人単位のプロジェクトワークが始まる2年次に向けて、人や組織と向き合うための自分の軸をつくる貴重な機会となることでしょう。