LDC教員にスポットをあて、深堀りするLDC教員インタビュー。今回はリーダーシップ・ウエルカム・プロジェクト、人材開発・組織開発論1・2、質的研究法、キャリアとリーダーシップ論、リーダーシップ・ファイナル・プロジェクト1・2の講座やコース運営を担当する藤澤 広美先生です。専門は、キャリア教育、人材マネジメント・人材育成。大学キャリア教育や組織におけるチーム活性化について研究されています。
インタビュー前編では、藤澤先生の転機と出会い、組織への問題意識について伺いました。
インタビュー後編では、「理論と実践の往還」「LDCの立ち上げと授業づくり」「LDCで学ぶ方々へのメッセージ」について伺っていきます。
◇理論と実践の往還しつつ、探求を続ける
―キャリアセンターでの仕事はいかがでしたか?
藤澤 学生のキャリアを支援する日々はやりがいがあって大変充実していました。一方で、学生一人ひとりの相談に乗ることで目の前の問題解決はできるものの、彼ら・彼女らにキャリアに関する基礎知識やスキルがない状態では根本的な問題解決には至らない、という新たな問題意識も芽生えました。「大学教員としてキャリア教育・支援を探究して、多くの学生のキャリアをサポートしたい」という思いが湧き上がっていた矢先、夫の転勤で東京に帯同することになり、県立広島大学での仕事はわずか半年で辞めることになりました。
―その後、転居先の東京で研究活動を再開されたのでしょうか?
藤澤 右も左も分からない東京で、まずは学ぶ場や仲間を探すことにしました。実は、その頃に出会ったのが中原淳先生です。勝手ながら、研究領域も問題意識も近そうだと自分との親和性を感じて中原先生主催のワークショップに頻繁に参加していました。東大中原研究室の見学や勉強会にも参加させていただく機会もありましたが、2014年から広島大学大学院の博士課程後期(博士課程)に再入学して「大学生のキャリア教育」をテーマに研究を再開することにしました。そのときには学生キャリア支援の職に就くことができていたので東京で仕事をしつつ、広島に遠征してゼミに参加したり、オンラインで論文指導いただいたりと、遠距離指導の形で研究を進めていきました。ただ博士学位取得に至るまでは紆余曲折ありました。夫の転勤に伴う引っ越し3回、入院・手術2回、妊娠・出産、仕事復帰とさまざまなライフイベントが重なり、休学期間をはさみつつ研究活動を続けました。
―女性のキャリアというのはどうしても、結婚や夫の転勤による転居、出産や育児といったライフイベントで中断しがちです。諦めずに博士学位取得までやり抜くことができたのは、なぜですか?
藤澤 ある意味では、自分に自信がなかったことが功を奏したのかもしれません。大学院や研究科によって学位取得までの平均年数は異なると思うのですが、わたしの在籍していた社会人コースでは7~8年かかるケースも少なくなくありませんでした。そもそも自信のなかったわたしは学位取得に対して「いつか取れたらいいな」といった人生の中期目標のように捉えていました。いま振り返ってみても学位取得までの道のりはとても険しかったです。膨大な先行研究の海原で長く遭難していた時期もありましたし、投稿論文の査読結果に心が折れかけたことも何度もありました。幸いにも博士課程在学中に大学教員のポストを得ることができたので「大学教員の夢は叶ったし学位はなくても…」と気持ちが下がっていた時期もありました。
―その気持ちの浮き沈みには、先ほど伺ったさまざまなライフイベントが影響しているのでしょうか?
藤澤 はい。大きく影響したと思います。転居や入院・手術では物理的に研究活動を中断せざるを得ませんでした。それから博士学位取得を目指している傍らで、できることなら子どもを授かりたいという気持ちがあり、キャリアに悩む時期もありました。ただ、あるとき、ふと「2つの夢のどちらとも不確実性が高いのであれば、どちらかひとつでも叶うように努力を続けてみよう」と決意しました。とても有難いことに2021年に娘を出産、2023年に博士学位を取得して2つの夢を叶えることができました。ここまで諦めずに続けてこれたのは自分の人生への貪欲さやマイペースさが関係していると思うのですが、その根底には家族の存在があったからこそだと感じています。これまで支えてくれた家族に心から感謝しています。
―博士課程後期(博士課程)に進むにあたって、研究テーマを変えられたとのことだったのですが、それはどのような経緯があったのですか?
藤澤 修士課程では、民間企業で勤めていた頃の問題意識から「どうすれば若年層従業員がイキイキと働けるか」という経営学領域の研究をしていました。ですが、学生のキャリア支援をしているうちに「そもそもキャリア選択・決定がうまくいかなければ、イキイキと働くことはできない」、「キャリア教育を充実させなければ、個人が主体的にキャリア探索することも実現でしない」と考えるようになり、博士課程ではキャリア教育領域の研究を始めることにしました。大学生のキャリア教育について探究していくと、より早い段階からの支援が効果的だという考えに至り、博士論文では「キャリア探索を始める準備段階の学生に対していかにキャリア探索を促すのか」という研究テーマに取り組みました。ですので、修士課程と博士課程で問題意識や関心ごとが変わったということではなく、延長線上にある研究テーマであると捉えています。
―藤澤先生はご自身が現場でお仕事をする中で生まれてくる問題意識をとても大事になさっている印象です。
藤澤 はい。博士課程に在籍しながら大学のキャリアセンターで働いていたのも現場にリアルに存在する課題を解決したい、という思いがあったからだと思います。LDCの授業の中でも「理論と実践の往還」について言及することがありますが、わたし自身も学んだ理論やアプローチが現場で役に立つのか、自分でも実践して効果をみたい。そうすることで、自身の研究への理解が深まりますし、より社会に役立つ知見になると考えています。LDCでは修士修了後のトランジション支援を目的とした「キャリアとリーダーシップ論」という授業を担当していますが、受講生と一緒に「キャリア理論をどのように実践に応用するか」、「実践するうえでのどのようなことに留意すべきか」について議論を重ねる機会を設けています。こうした学びを経て、キャリアに関しても理論と実践の往還ができるアカデミック・プラクティショナーが増えることも狙っています。
◇LDC開講、ゼロからの授業づくりで得たもの
―藤澤先生はLDCに立ち上げから関わっていらっしゃいます。そもそも、立教大学経営学部には、どのような形で関わるようになったのですか?
藤澤 立教大学で働き始めたのは2017年の秋からですが、まずは大学教育開発・支援センターに助教として着任しました。当初から立教経営学部のリーダーシップ教育に興味があって「いつかBLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)を担当したい」という思いもあり、自主的に授業見学をしていました。その後、2019年に構想段階にあったLDCにお声がけいただき、2020年4月のLDC立ち上げとともに経営学部に異動しました。同年に教員としてBLPを担当することが叶い、LDCのコース・授業運営に関わるようになって現在に至ります。まさかこのような形で中原先生とご一緒することになるとは10年前のわたしは想像もしていませんでした。中原先生と親和性があると感じていたのは、わたしだけの思い込みではなかったと今となっては思えます。
―藤澤先生は2020年4月のLDC開講時から、中原先生の右腕としてゼロからのコース運営や授業づくりに関わっていらっしゃいます。始まったときは、どんな感じでしたか?
藤澤 開講時は本当に大変でした。新型コロナウイルスが流行し始めたタイミングで、急遽オンラインで開講することになったのです。開講直前にオンライン授業を運営するためのノウハウを得ようと、手当たり次第オンラインイベントに参加して準備をしていたのを覚えています。ですが、それ以上に遠い憧れの存在だった中原先生と授業運営をすることに緊張感がありました。その当時は中原先生が頻繁に夢に出てくるほどでした(笑)。わたしは人材開発・組織開発の専門家でもなく、中原研究室出身でもないため、中原先生の真意を理解して授業運営できているという自信を持つことがなかなかできなない状況が続きました。
―コロナ渦で対面でのコミュニケーションがとれないなか、どのような工夫をされたのでしょうか?
藤澤 そんな状況下で意図を汲み取ってスムーズな授業運営やサポートするためには中原先生の知見や考えを理解しておく必要があると考えて、課題図書は全て読みました。ですが、初めて尽くしの環境で、すぐに納得のいく授業運営やサポートができるはずもなく、授業が終わる度に振り返り、最適解を求め続けました。特に着任1年目は、わたしも1期生のみなさんと一緒に「人材開発・組織開発」について必死で学んでいたという感じです。慣れてきたと感じ始めたのは着任3年目だったと思います。これには着任2年目に産休・育休をいただいたという私情も影響しています。いまは、いつ子どもの緊急対応が発生しても仕事が滞らないように早めの連絡・相談、計画と実行を心がけています。
―LDC開講からの5年間は、藤澤先生にとってキャリアでも、相当タフな挑戦をやってのけた期間だったのではないでしょうか。中原先生と授業づくりをしていく中で、特に気を付けて取り組んでいたことなどはありましたか?
藤澤 これまでを振り返ると、さまざまなことに取り組んできましたが、その中でも特に意識してきたことは「コース運営や授業の改善」です。どのようにすれば、より良い学びの場が実現し、提供できるのかということを大切にしてきました。課題に対しては積極的に改善案を出して協議を重ね、次年度に実行してきました。また、受講生から各授業に対してフィードバックアンケートをもらう機会があるのですが、そこに記載された課題もすべて議題にあげて教職員間で協議したうえで授業に反映させてきました。こういった受講生からの感想や意見が場をよりよくするうえで一番有り難いです。この5年間は教職員だけでなく、受講生の力を借りながらLDCがより良い学びの場になるよう、学びの質が向上するよう、粘り強くコツコツと改善を続けてきたように思います。
―中原先生に一番近いところでお仕事をなさってきて、影響を受けたことはありますか?
藤澤 これまでさまざまな影響を受けてきましたが「授業での話し方が中原先生に似てきた」と言われることがあります。もちろん意識的に真似ることもありますが、無意識のうちに中原先生の授業スタイルが沁み込んでいるようです。この5年間は身近なところに尊敬できる先生方がいるという、とても恵まれた環境にいます。それは、わたしにとってもまたとない貴重な学びの機会ですので、LDCでの学びをどのようにアウトプットできるのかを考え、実践することを心がけてきました。そして、LDCでの学びを通して、人材開発・組織開発の研究や実践に取り組んでみたいと思うようにもなりました。このようにLDCで中原先生とご一緒するなかで「沁みこんだ学び」を自分の専門性に反映させたうえで、どのように社会貢献できるのかを考えるようになったのは、私自身にとって大きな変化といえるかもしれません。今後も「キャリア教育」と「ひとや組織」、その2本柱で研究と実践に取り組んでいきたいと考えています。
―LDC生と身近に接していて、どんなことを感じられますか?
藤澤 LDC生のみなさんが学びによって変わっていく姿を見るたびに「学びたいという気持ちがあれば、誰でも変わることができるんだ」と、いつも感動させられます。なにより自分自身が学びによって変わることができた一人ですので、学びたいという意欲のある方たちをサポートしたいと心から願っている自分にも気づかされます。また、LDC生のみなさんには「日本を変えたい」、「世直しをしたい」という想いの強さがあって、日本の明るい未来を感じさせてくれます。LDCでの学びを波及させ、よりよい明るい社会を作る担い手になっていただけることを願っています。
―最後にLDCへの入学を検討している方へのメッセージをお願いします。
藤澤 LDCへの入学を検討していただいているみなさんには「学びたいという気持ちがあれば、何歳からでも学べる」、「変わりたいという想いがあれば、いつでもなりたい自分になれる」ということをお伝えしたいです。また、一人で学ぶよりも志のある仲間たちとともに学ぶと相互作用がうまれ、思いもよらない大きな変化がおきたりします。それは、この5年間LDC生を見てきて確信しているところです。人生に遅い、早いといったことはありません。「ひとや組織」に興味・関心のある方、「日本を変えたい」、「世直しがしたい」という想いがある方は、ぜひLDCで学んでいただきたいです。わたしもLDCの一教員として、みなさんの学びをサポートさせていただきたいと思います。