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  • 2023.01.19
  • 授業
  • チームワークの理論と実践を学ぶ 「チームワーク論」

2022年度から始まった「チームワーク論」はチームワークに関する基礎理論・基本的概念について学ぶ授業です。「人づくり・組織づくりのプロフェッショナル」となるためには、「個人」と「組織」の間にある「チーム」という小サイズの集団における問題解決や相互作用、いわば「半径5メートルの人間関係」についても深く学ぶ必要がある、との考えから新設されました。


担当は人的資源管理論・人材マネジメント論がご専門の立教大学経営学部助教の田中 聡先生。選択科目ということで1年次、2年次から希望者が履修する授業となっています。12月2日(金)18時30分からオンラインで行われたセッション2(第3回、4回授業)「チームワーク論」の授業の様子をお届けします。


チームワーク論の授業は、田中先生によるレクチャーとグループディスカッションで進められます。2回目の授業であるこの日の授業は前回のおさらいから。「みなさん、そもそもチームってなんでしょうか?」田中先生が穏やかに語り掛けます。


チームは、単なる「集団」とは異なります。「⽬標を共有しつつ、相互作⽤しながら物事を達成する社会集団」というのがチームの定義です。目標が共有できていなければ、それぞれが目指す方向性もバラバラになってしまいます。また、相互作用が無く、各々が自分の仕事をするだけ、というのでは共有した目標を達成することができません。そして、このチームの成果を高めるためのプロセスが、この授業のテーマであるチームワークです。


では、チームワークはどのようにして学べばいいのでしょうか。田中先生は「レクチャーを聞くだけでチームワークを身に着けることはできません。個人の学びと同様、チームの学びも経験学習です。チームでの活動をチームで振り返り、持論化、言語化して次の経験に活かす、といった形で学んでいくのです」と話します。というわけで、この日の最初のグループワークでは、リーダーシップ・ウェルカム・プロジェクト(LWP)での経験をチーム毎に振り返り、それぞれの「チームワーク持論」をつくっていくワークを行いました。30分のグループワーク後に、いくつかのチームが発表を行いました。


リーダーシップ・ウェルカム・プロジェクト(LWP)とは、LDC入学直後から行われるチーム実践プロジェクトです。1年次最初のプロジェクトということで誰にとっても印象深いものとなっているためか、1年次の受講生にとっては半年前、2年次の受講生にとっては1年半以上前の経験ではありますが、どのチームも山あり谷ありのチーム経験を鮮明に語っていました。
「チーム内で大切にしたい価値観を言語化して合言葉にする」
「ポジティブなものもネガティブなものも、素直な気持ちをメンバーに伝える」
「チーム内でのグランドルールを決めておく」
「チーム状態が落ちたときにはメンバーと向き合い、しっかりと対話をする」
「何が得意な人なのか、何がしたい人なのか、お互いの背景を理解する」
など、それぞれのチーム経験から導き出されたリアルなチーム持論が述べられていました。


多く聞かれたのは、チーム内の不協和や壁にぶつかる経験を乗り越えてチームがまとまった、といったエピソードです。そうしたエピソードを聞き、「我々のチームは特に揉めたり、大きな壁にぶつかったりすることは無かったが、それはチームとして良かったとは言えないのかもしれない」といった感想を述べた人がいました。確かに、チーム崩壊の危機を乗り越えたことで絆が強くなった、といった話はよく聞きますが、最初から最後まで波風が立つことがないまま、チームがまとまる場合も無いわけではありません。果たして、一度は混乱を経験しないと良いチームはつくれないものなのでしょうか?


田中先生は「チームの発達モデルとしては、チーム形成後、混乱期を経てチームがまとまるという『タックマンモデル』が有名ですが、このモデルは実証されたものではありません。そもそも実際のチームはもっとダイナミックに日々動き続けるものであり、なにか決まりきった一つのモデルに当てはまるようなものではないはずなのです。ですので、チームワークを学ぶみなさんは、もっともっと細かくチームの動きを見て、チーム単位でそれを捉えていくことが大切だと思います」と話しました。



後半は田中先生によるレクチャーです。「ここは大学院ですので、今日はチームワーク研究の学術的なバックグラウンドとなっている社会心理学・組織心理学の理論や研究についてお話していきます」ということで、講義がはじまりました。


社会心理学とは、「個々⼈の思想・感情・⾏動が、 他の⼈間の現実の存在、あるいは想像や暗黙のうちに仮定される存在によって、 どのように影響されるかを理解し、説明すること」 を⽬指した学問(Allport, 1954)です。社会心理学では、「人の行動や考え方は、社会的な関係性の影響を強く受けるものである」と捉える⽴場を取ります。


人の行動や考えが社会的な関係性の影響を受ける、とはどういうことでしょうか。授業内で例に挙げられたのは、多くの目撃者がいたことで、全員が傍観者となってしまい、犯罪を止めることができなかったキティ・ジェノヴィーズ事件、閉鎖的な環境に置かれると、道徳的に問題があることであっても権威者の命令に服従してしまうミルグラムの電気ショック実験(通称・アイヒマン実験)です。人は行動や思考を自分の考えで主体的に行っていると思っていますが、実際はそうでもないのかもしれません。社会心理学は、心理学が個人を起点にした考えに偏り過ぎているというアンチテーゼから生まれた学問でもあるとのことです。


授業では、集団・チームに関する研究のベースとなっている社会心理学の歴史を、その起源といわれるヴィルヘルム・ヴントから、ビッグファイブの生みの親オルポート、場の理論やグループ・ダイナミクスを提唱したクルト・レヴィンといった研究者を取り上げて紹介。また様々な社会心理学実験と共に「群衆心理」「同調行動」「集団規範」「集団的浅慮」といった社会心理学の概念についても学んでいきました。


人は集団になると、間違った行動を取ったり、間違った判断を下してしまったりすることがあります。また、どんなにいいチームでも、時間の経過とともにパフォーマンスが下がってしまうものです。カッツの研究によるとチーム結成から3年半でチームパフォーマンスは急低下するそうです。つまり、「集団は放っておくと、明後⽇の⽅向に勝⼿に進んだり、 ⽼け込んでしまう“性質”がある」のです。だからこそ、チームパフォーマンスを維持して適切な方向へ向かわせるための「チームワーク論」が求められている…というわけです。


チームワーク論について田中先生は、「この授業では、様々なチームの問題解決をするにあたって必要となる『チームに対する正しい見立て』を身につけてもらいたいと考えています。授業では、チームの成果を最大化するために必要なメンバー編成の考え方や、チームでの目標管理・問題解決・関係性構築の仕方など、様々なチームに応用できる実践的な内容を扱います。しかし、この授業の特徴は、そうした現場ですぐに役立つノウハウやメソッドを表面的にピックアップするのではなく、その背後にある社会心理学・組織心理学の理論や先行研究についても幅広く扱うことにあります。受講生からすると一見遠回りと感じるかもしれません。ただ、そうした理論や先行研究を学ぶことによって、過去の経験から持論化された『チームに対する自分なりの見立て』を揺さぶり、新たな見方や考え方を取り入れるチャンスにしてもらいたいと思います」と話します。


次回以降は「チームの力を発揮させるのは、どのようなメンバー構成のチームなのか」「目標管理やフィードバックなど、どのようなチーム行動がチームパフォーマンスを高めるのか」「心理的安全性や相互信頼など、チーム内にどのような態度が求められるのか」「どのようにしてチームワークを学習、発達させるのか」など、チームワークについてさらに深く探究していきます。
働く大人の誰にとっても身近な「チームワーク」ですが、ここまで掘り下げて学ぶことができる授業はLDCならではと言えるのではないでしょうか。チームワーク探究の旅は年明けまで続きます。