8月5、6、7、11日の4日間で2年次の夏期集中講義「リーダーシップの理論」がオンラインで行われました。「リーダーシップの理論」は、学術文献の輪読を通じてリーダーシップの理論への理解を深める授業となっています。担当教員は石川淳先生。ここからは4日間の講義のうち、8月5日(金)18時30分から21時55分まで行われた初回授業のレポートをお届けします。
18時30分、授業開始前から受講生と気さくに名古屋名物のひつまぶしの美味しさについ話されていた石川先生。軽妙で楽しい石川先生のトークに、受講生たちも思わず笑顔になります。
最初に石川先生から授業の目的や進め方などについて説明がありました。この授業では、著名な学術論文を輪読し、主要なリーダーシップ理論を学びます。受講生は事前に担当する文献を割り当てられ、各自が担当する文献についてのレジュメを用意し、授業内に発表します。受講生は発表者が示したディスカッション・ポイントについて話し合い、実践への応用について考えます。
1人目の発表の前に、まずはイントロダクションです。タイトルは「資質・行動・状況適合アプローチ」。「理論とはなにか?」「科学的真実とは何か?」の問いからはじまります。石川先生は、「科学も真実を求める学問ですが、宗教も真実を求めるものです。宗教上の真実と科学的真実はどのように違うのでしょうか?30秒間考えてください」と問いかけました。
「科学的真実」には、状態を示す記述的真実と因果関係についての因果的真実があり、記述的真実を明らかにするものが「調査」、因果的真実を明らかにするものを「研究」であると説明します。また、「理論とは、ある程度の時間・空間を越えた概念間の因果関係を表した因果的真実を指したものである」と結論づけます。
さらに、理論を学ぶ際は、どのような先行研究の流れを受け継いでいるのか、先行研究が抱えるどのような課題に取り組んでいるのかなど、『研究の流れの中での位置づけを知ること』、『理論がよって立つパラダイムを知ること』が重要です。パラダイムとは、どのような視点で現実を捉えているか、何を見て何を見ていないのか、ということです。ある視点を持っているということは、別の視点を棄てている、ということになります。だからこそ、理論について学ぶ際は、この理論はなにを見ていて、なにを見ていないのかを意識することが大切なのです」と、強調しました。
理論を学ぶうえでの心構えができたところで、リーダーシップ研究の流れについてのレクチャーに入っていきます。初期はリーダーの生まれ持っての資質について明らかにしようとした「資質アプローチ」による研究が行われていました。その後、リーダーシップを発揮するために必要となる行動を明らかすれば、リーダーを育成できると考え「行動アプローチ」の研究が進みますが、石川先生は、次の問いを立てます。
「行動アプローチにも、問題点がありました。状況によってリーダーの取るべき行動は変わるだろう、ということで、生まれてきたのが、『コンティンジェンシーアプローチ』というわけです。この続きは、みなさんからの発表でお願いします」と、バトンは受講生の方に渡されました。
ここからは受講生による発表です。理論解説の発表は解説に20分、ディスカッションに20分という形で行われます。
最初の発表は、「SL理論」です。「SL理論」はSituation(状況)によって 最適なリーダーシップは異なる、として4つのリーダーシップスタイルを使い分けるべきだとする理論です。発表者は理論をわかりやすくまとめたパワーポイントで解説、途中には理解度テスト、最後にはミニケースが用意されていて、理解が深められるような工夫が詰まった発表となっていました。ディスカッションタイムでは、ブレイクアウトルームに分かれ、少人数でSL理論を実践で応用する際の強み、弱みについて話し合われました。「新任管理職がマネジメントする際の指針になりそう」「自分のリーダーシップスタイルがチームに適したものになっているか、振り返るのによさそう」などと強みが挙げられた一方、「メンバーの開発レベルを見極めるのは難しい」「リーダーシップスタイルが自分に合っていない場合は難しい」などといった弱みも上げられました。どのチームも「自分の職場なら…」などと自身のマネジメントに置き換えて考えるなど、理論を現場で応用することを想定した議論になっていることが印象的でした。
休憩後は、1970年代にHouseらによって提唱された「パス・ゴール理論」の発表です。「パス・ゴール理論」とは、フォロワーの目標達成を助けることがリーダーのミッションであり、リーダーの役割は、フォロワーに目的達成のための道筋(path)をしっかりと示してフォロワーの目標(goal)の達成を助けることである、とする理論です。この理論では、フォロワーのニーズやモチベーションに着目した点が革新的とされています。
発表者による理論解説を聞いた後は、グループでのディスカッションです。ディスカッションに際しては、「パス・ゴール理論の特徴の一つとして実用的であることがあげられているが、実感値や経験則としてパス・ゴール理論に納得できる点・できない点」「パス・ゴール理論をどのようにリーダー育成やリーダーシップ開発に活かすことができるのか」などディスカッション・ポイントが挙げられているため、話し合いもスムーズで、各グループとも非常に活発な議論がされていました。「フォロワーのモチベーションにフォーカスしているのが面白く、考え方には納得感がある」「実はそれぞれが現場で自然に発揮しているリーダーシップ行動そのものに近い気がする」「納得感はあるけど、複雑で考えることが多すぎ、使いにくい」「振り返りの際に、様々な要素を確認するには良さそう。自分なりのパス・ゴール理論をつくっていくといいのではないか」などといった意見が出ました。
授業の最後には、石川先生による解説がありました。「SL理論、パス・ゴール理論、それぞれ優れた部分もありましたが、現代には使えないね、というところもありました。どの理論にも強み弱みがあり、人によってピンと来るもの来ないものがあります。だからこそ、様々な理論を学ぶ意味があるし、使える部分だけを使えばいいのです。ディスカッションする際の注意点として大事なことは、理論を抽象度が高いまま議論しないということです。理論を自分や職場に置き換えて考えてみることで、理論の豊かさを味わうことができます。明日以降も英文の論文が続きます。論文は分かるところだけ読み、だいたい分かれば十分です。絶対に止めていただきたい事は、論文に書いてあることを鵜呑みにすることです。常にその論文のどこに限界があるのかを考えながら読んでください。では、また明日」と授業を締めくくりました。
石川先生はこの授業の目的は3つあると述べます。「1つ目は、まずは『学術論文って面白い、もっと読みたい』と思っていただきたいです。今、この分野の研究は、日進月歩で進められていて、2~3年で知識が古くなってしまうところがあります。研究を分かりやすくまとめた本を読むのもいいのですが、最新の知見、研究成果は論文に載っているものです。この授業で少しでも論文を読む面白さを感じていただき、LDC修了後も学び続けていただけたらと思っています。2つ目は、リーダーシップ開発コースということで、リーダーシップについての知識、理論、研究について、大事なところを一通り押さえておいていただきたい、ということがあります。この短期間でリーダーシップに関する論文を全て読むのは到底無理ですが、相互にシェアするので、一通りの研究が頭に入る、という意味ではお得感のある授業なのではないでしょうか。3つ目は、『パラダイム』という考え方を理解し、腹落ちしてほしいということです。どんな研究も、理論も、もっと大きなグランドセオリーに依って立っているものです。それは同時に、視点から抜け落ちているものがあること、見えていないものがあること、を意味します。そのことをきちんと理解していただきたいのです。自分は何の前提に立って、ものごとを見ているのか、その前提に立ったとき、何が見えなくなるのかを意識していること。これは研究者だけでなく、実務家であっても大切なことのように思います」と話しました。
文献を輪読する、という授業スタイルは、多くの大学院で一般的に行われているものですが、とてもアクティブでインタラクティブな授業となっていました。石川先生によると、この授業スタイルは、一般的な大学院授業と特に変えているところは無いのだといいます。「むしろ授業スタイルを変えているのは受講生たちです。発表のパワーポイントもプレゼンもとても分かりやすく工夫され、ディスカッション・ポイントも『どうしたら授業の目的に合うのか、どうしたらみんなの学びになるのか』という視点でつくってきてくれています。こんなことは、通常の大学院ではありえないことです。その意味では輪読の授業も『自分たちの学びは自分たちでつくる』LDCらしい授業になっていると言えるかもしれません」
論文の面白さをみんなで味わう2年次の夏はまだまだ続きます。