「マネジリアル・コーチング論」はいわゆる「部下指導」「管理者コーチング」の理論と実践について専門的に学ぶ2年次の選択科目です。
昨今は上司と部下が1対1で定期的にミーティングを行う「1on1ミーティング」を取り入れる職場も増えていますが、このような内容について専門的に学ぶことができる大学院授業は日本では珍しいのではないでしょうか。担当教員はマネジリアル・コーチング論がご専門の永田正樹先生です。7月8日(金)18時30分からオンラインで行われた授業最終回となるセッション7(第13回、14回授業)の様子をお届けします。
18時30分、授業が始まりました。授業の目的とスケジュールを簡単に説明した後、まずは「5分間リフレクション」です。3,4人ずつのブレイクアウトルームに分かれ、2週間の間に印象に残ったできごとを1つ選び「経験したこと、学んだこと」を2分間ずつ語ります。
続いては、「前回授業の振り返り」を行っていきます。振り返りにしっかりと時間をかけるのは、マネジリアル・コーチングにおいて、リフレクションを特に大事にしている、という永田先生ならではです。振り返りだけでなく、質問に答えたり、関連する理論や事例を紹介したりしながら、さらに理解を深めていきます。
事業会社で長年マネジャーを務めてきた永田先生は、理論や概念を自身のマネジャー経験に重ね、自らの言葉で語ります。越境学習、変容学習については、「30代後半の頃、マネジャーとしてうまくいかず、悩んでいました。何も手につかなくなり、京都の寺で半日過ごしていたこともありました。そんな時、越境学習の機会を得ました。青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムに参加したのです。集まっていたのは自分より年下の人たちばかりでしたが、みなさんとても優秀でした。グループで協働するうち、部下に対して自分の優秀さを示さなければダメなのだ、と勝手に思いこんで自分を出せずにいた自分に気づきました。また、同じ時期に参加したワークショップで、現状と1年後なっていたい自分の状況をレゴブロックで表現するというワークを行ったことがありました。その際、私の作ったレゴブロックを見て、中原淳先生から『現状を表現しているレゴブロックには、部下の方がいませんね』と指摘を受け、はっとしました。私は自分がマネジャーとしてなんとかしなければ、と思うばかりで部下のことを見ていなかったのです。今思うと、それがマネジャーとしての私の変容的学習経験だったように思います」と自身の経験を振り返りました。
次は「事例研究」の時間です。今回は最終セッションということで、マネジャーの部下育成に関する事例に取り組みます。課題は「これまでマネジリアル・コーチング論で学習した理論を活⽤し、コンサルタントとしてこの会社の人事担当者に課題解決プランを提案せよ」というもの。グループ毎にケース事例から課題を抽出し、討議しながらその場で発表資料を作成していきます。課題を一つ一つ書き出し、課題の整理に時間をかけるグループもあれば、解決策や働きかけるべき対象者の検討に時間をかけるグループもありました。どのグループもコンサルタントさながらに課題を検討し、提案内容を考えています。
全チームの提案資料が整ったところで、いよいよ提案内容のプレゼンテーション発表です。45分間の間に、課題整理から目指すべき状態、改善策、理論的背景などの検討をしっかりと行い、提案につなげているグループも。改善提案の内容も様々でした。
今回のケース事例は、永田先生が過去に関わった事例をケースにしたものだったとのこと。実際にどのような見立てから提案を行い、どのような調査分析を行い、最終的にどのような介入を行ったのか、永田先生から詳細かつ生々しい解説を聞くことができ、受講生からも多くの質問が寄せられていました。
休憩後は「実践研究」です。マネジリアル・コーチング論の授業では、それぞれが、授業外の現場でコーチング実践を行うことが求められます。授業の前半で、コーチング実践の逐語録を元に自分のコーチング実践を振り返り、企業の現場で1on1の普及に取り組む実務家の講義を受けるなど、マネジリアル・コーチングに関する理解を深めます。後半では、再度現場でのコーチング実践にトライ。最終日となる今回の授業では、1回目と2回目のコーチング実践の逐語録を比較し、どこが変わったのか、改善はできたのか、などをグループ内で共有します。実践を通して気づいたことを話し合うグループもあれば、部下との接し方についての悩みを打ち明けたメンバーに対して、メンバー全員でコーチングを行っているグループもありました。
最後はマネジリアル・コーチング論らしく、実践研究で抽出された自らの課題の解決に挑む「最終ロープレ」。3人ずつのブレイクアウトルームに分かれ、それぞれ部下役、上司役、オブザーバー役に分かれ、1on1のロールプレイを行います。1ラウンドは13分で、実践からリフレクションまで短時間で回していきます。
テーマは「大学院での勉強または仕事で今一番気になっていることは?」というもの。みなさんお悩みはリアルで切実です。短い時間ですが、授業を通して実践を重ねてきただけあって、どのルームでも質問に詰まることなく、和やかな雰囲気でコーチングが進められていました。
最後は永田先生が「これでマネジリアル・コーチング論の授業は終わりです。私にとって初めての大学院授業だったのですが、教えるというよりは、一緒に学ぶ場をつくって、みなさまの学びのお手伝いしたという感じでした。私自身、この授業を通じて成長できたように思います。今改めて『何歳になっても成長できるものだな』と実感しています。みなさまのリーダーシップ・ファイナル・プロジェクトの成功をお祈りしています」と話し、授業を終えました。
永田先生はこの授業について「みなさんに、授業の序盤で実際の職場で1on1を実践し、逐語録に起こすことをしていただいたのですが、それが良かったように思います。逐語録をつくると、自分の癖や改善点が見えてきます。『どうすればもっと上手くできるだろう?』という思いを持つことで学習意欲が高まり、その後のゲストの講義や理論についてもみなさん熱心に学んでくださいました。ロープレも短時間ですが、何度も行うことで、実践へのハードルを下げることができたのではないかと思います。また、みなさんリーダーシップ・ファイナル・プロジェクトに取り組んでいる2年次の方々ですので、そのことを意識して、参考になりそうな論文を数多く読むことも意識しました。この授業だけで20本の論文を読みましたが、論文をみんなで読み合って感動し合える、ということがほんとうにうらやましいです。論文は1人で読むと孤独ですからね。みなさん1年間共に学んでいるということもあり、チームワークがすばらしく、心理的安全性も高くて、いい学びの場になっているなと感じました。アカデミック・プラクティショナーとして、マネジリアル・コーチング論で学んだことをぜひ現場で活かしていただければと願っています」と、感想を語りました。
お互いに語り合い、学び合いながら、理論と実践をつなぐアカデミック・プラクティショナーの学びはまだまだ続きます。
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