2022年3月に修了されたH.MさんにLDCで学んだ2年間の大学院生活を振り返っていただきました。
LDC一期修了生 H.Mさん(IT企業 人材育成部門)
―修了おめでとうございます。まずはLDCに入学したきっかけから教えてください。
H.Mさん(以下敬称略): IT関連企業の人事部で、エンゲージメントサーベイを担当していたのですが、自分の仕事が組織、経営に貢献している感覚が持てずにいたのが入学のきっかけです。データ分析に興味があり、MBAでも統計を学んだのですが、当時学ぶことができたのは、データを集めて分析し、それをダッシュボードにして発表するところまででした。サーベイを分析し、それを組織にフィードバックして組織開発につなげるプロセスはMBAでも社内でも学ぶ機会は得られませんでした。せっかくのデータを活かせないままで、このサーベイを続けていく意味はあるのだろうか、と一人で頭を悩ませていた時、中原淳先生が書かれていた『サーベイフィードバック入門』を読み、これを勉強してみたい、と思ったのです。
―H.MさんはKBS(慶應ビジネススクール)でMBAを取得なさっているのですよね。なぜまた2度目の大学院進学を思い立ったのでしょうか。
H.M:私の中で、KBSでの経験はとても大きく、人生を変えてくれた場所であり、最高に楽しかった2年間でした。私はもともと、海運会社でクルーズ船のクルーをやっていました。接客や入出国、税関の手続きなど、目の前の仕事に終われていたのですが、経営や組織について体系的に学びたいと考えるようになり、KBSへの入学を決めました。ところが、入学してみたら、周囲は大企業やコンサルティング会社など、全く異なる世界から集まった方々ばかり。議論では、聞いたことの無いような用語が飛び交っていて、キャッチアップするだけでも必死、というありさまでした。そうした中で、色々な方に教えてもらいながら努力を重ね、ゼロから学び始めて単位を取得し、修了した、という経験は自分の中でも大きな自信になりました。もう、それを越えるものは無いだろうといった思いがあったのです。
ですので、LDCについては、自分が学びたいこと、自分に足りないことだけを学んで持ち帰らせてもらえばいい、といった程度の動機しかなかったのが正直なところです。今思うと、ちょっと感じ悪いですが(笑)
―これ以上無いほど大変な努力を重ねてMBAを取得なさったからこそ、LDCではそこまでのインパクトは期待していなかった、ということなのですね。実際にLDCに入ってみていかがでしたか?
H.M:入学してしばらくは、ビジネススクールとの世界観の違いに気づかずに過ごしていました。ビジネススクールでは、効率よく高いアウトプットを出すことが重視されていました。競争に勝つコンペティション的世界観があり、ビジネスプランなどを発表する際も一番いいものだけが選ばれます。よりロジカルで、より切れ味のいい発言をすることが求められ、フィードバックは、相手の成長を思ってする、という視点に立つよりも、自分たちがより優位に立てるよう、他者や他チームの弱点を戦略的に指摘する、という姿勢で臨むことが多かったです。
―LDCに入られたとき、最初は違和感があったのではないですか?
H.M:LDCは世界観が180度異なっているのだ、と気づくまでは、違和感しかありませんでした。それぞれ、自分の価値観を持っていて、その価値観に基づいたアイディアを持っているのだから、その視点を尊重する。フィードバックするとしても、誰がいつ、どのような形で声がけするのが相手の成長のためには適切なのか、といった視点で考えるのがLDCの世界観です。私はなかなかそれに気づけませんでした。
1年次秋学期、人材開発・組織開発論2のグループワークの初回でチームビルディングをする流れになった時に、「私はこのプロジェクトにあまり時間をかけられないので、アジェンダを決めて、係を決め、効率的に進めたい」と伝えたところ、メンバーが凍りつきました(笑)。当時の私は短時間で一番いいアイディアを選び、実行することが何よりも大事だと考えていたので、自分のことや自分が学ぶ目的などを話したりしてチームビルディングしていく…といったことに意味を見いだせなかったのです。
―確かに通常のビジネススクールとLDCとでは世界観が異なっていますね。どのあたりでそうした価値観が変わってきたのですか?
H.M:なにか決定的なことがあったわけではないのですが、人材開発・組織開発論2のグループワークを通して、チームで働くことの良さを実感したことがあります。人材開発・組織開発論2のチームでは、チームで取り組んだことによって、明らかに一人で取り組むよりもアウトプットの質が上がっていたのです。メンバーそれぞれの得意分野が異なっていてお互いの良さが組み合わされたチームだと、これほどまでに相乗効果が生まれ力が発揮できるんだ、と実感することができました。こんなに「チームの力」を感じたのは初めての経験でした。
―これまでのチームと何が異なっていたのでしょうか。
H.M:これまで私は、チームに「すごい!能力が高い!」と思う人がいたら、競争心や劣等感から、「できる限り人の強みを盗んで、自分がスキルアップする糧にしよう」という姿勢でいました。ですが、このチームでは自分以外のメンバーの持っている特性や能力を純粋に「強みだ」と認める自分がいたのです。それは初めての経験でした。明確な変化のきっかけがあったわけではないのですが、メンバーが優秀だったということに加え、私自身がLDCの日々の学びを通じ、少しずつ自己認識と周りの人に対する理解を深めることができるようになっていたからではないかと思っています。
それからは、チームメンバーと自分を同じ尺度で比べるのではなく、自分の強みや自分の好きなこと、役に立てることってなんだろう?と考えるようになりました。今思うと、ずっと他人軸で生きてきた自分が、自分自身と他人の両方を大切にできるようになった、という変化だったのかもしれません。
―他に自分自身で変わった、と感じるところはありますか?
H.M:自分が考えたことだけでなく、感じたことや気持ちを出していいのだ、ということに気づかされました。これまで、ビジネスにおいて自分の気持ち、感情を伝えることに意味があるとは思えず、対話の力というものにも懐疑的なところがありました。ですが、LDCで出会った人たちは私に、「H.Mさんは考えたことだけではなく、もっと、感じたことを感じたそのまま、まとまってなくても話した方がいいよ」と言い続けてくれました。そのおかげで、少しずつ自分の感情を出せるようになってきたのです。自分の感じたことを伝え、それが受け入れられると嬉しくて、また伝えたいと思うようになりました。特に人と向き合う人材開発、組織開発においては、そのことに価値あるのだ、と体感することができました。
以前は、会社でディスカッションの場をセッティングする場合などでも、いかにしてアジェンダ通り効率よく進め、アウトプットを出せるかばかりを気にしていました。ですが、今は、出席者それぞれがお互いのことを伝えあったり、それぞれの考えを伝えあったりする機会をつくることにも意味がある、と考えるようになりました。
―それは大きな変化ですね。2年間のLDCを通じて、どんな力が身についたと思われますか?
H.M:2年間勉強してみて、自分は何者でもないと気づきました。人材開発、組織開発においては、どれほど理論武装しても、背景、課題、解決策がどれほど完璧であっても、どれほどきれいなプレゼンを用意したとしても、それだけでは意味がありません。これまで、自分に足りないものを補おうと思って、ビジネススクールにも通い、様々な知識、スキルを身に着けてきましたが、人や組織に働きかけるうえで必要なものはそれだけではないのです。そのことに気づき、「自分には足りないものがある」と謙虚に自覚したうえで人と接していかなければならない、と気づけたことが、私にとって大きな収穫でした。
―今後、LDCの学びをどのように生かしていきたいですか。
H.M:LDC修了直後は、自分は人の成長に関わることに向いていないのではないか、人事としてやっていけるのだろうか、と自問していました。ただ、修了後1か月ほどたった今、自分のできることの幅が広がった、引き出しが増えたと感じるようになっています。研修企画なども体系的に学んだので自信もってやれますし、活動に緩急をつけたり、「このへんで休憩を入れよう」といった加減もわかるようになりました。LDC事務局の運営上の様々な工夫やワークショップのアイディアなども活かせることが多くて、積極的に取り入れています。LDCは修了しましたが、今でも人材開発のこと、組織開発のことに自然と興味が向いている自分がいます。
―最後に、LDCへの入学を検討している方へのメッセージをお願いします。
H.M:LDCはMBAとは全く違う世界観、価値観で組織について学べる日本で唯一の大学院だと思います。MBAと比較検討している方もいるかと思いますが、私にとってLDCはMBAで学んだものを補填する大学院ではなく、全く別もの、全く異なる世界観で存在している大学院です。今は、その2つの世界観が、私の中で相互に影響しあっていて、そのことが自分の今の仕事の幅を広げてくれていると感じています。
あと、費用面で迷われている方もいらっしゃるかと思うのですが、私は、立教大学大学院の奨学金制度に加え、立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR)という研究資金を助成していただける制度を利用させていただきました。このような制度を利用できることもお伝えしておきたいと思います。