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  • 2022.04.02
  • 授業
  • “信頼”を知るために、みんなの腕の中へダイブせよ!?

立教大学大学院リーダーシップ開発コース
リーダーシップ・ワークショップ演習

   
 2022年2月17日~19日の9時~17時まで、立教大学池袋キャンパス内の体育館、ポール・ラッシュアスレチックセンターで、選択科目のリーダーシップ・ワークショップ演習の授業が行われました。昨年は、新型コロナ感染拡大の影響で中止となってしまったため、今年は1年次、2年次合同開催となり、参加者は1年次16名、2年次4名の20名です。アクティビティを伴う授業ということで、全員が数日前からの体温チェック、前日の抗原検査を行い、授業は広い体育館で感染対策に気を配りながら進められました。担当はアドベンチャー教育がご専門の難波克己先生です。
 

 
 アドベンチャー教育とは人間的な成長、社会性の向上などを目指し、野外での活動や体験を通して学ぶ教育手法です。アドベンチャー教育のルーツは、第二次大戦中、ユダヤ系ドイツ人の教育者クルト・ハーンによって始められたイギリスのアドベンチャー教育学校、アウトワード・バウンドの野外体験型の教育プログラムにあります。1970年代以降、アメリカを中心にアドベンチャー教育活動は大きく発展・普及し、現在でも世界各地で様々な取り組みが行われています。本来は登山や自然の中でのキャンプなど、野外活動の中で行われるアドベンチャー教育ですが、その要素を取り入れ、屋内・屋外施設などで実践できるように開発されたのが、プロジェクト・アドベンチャーです。難波先生は玉川大学で、このプロジェクト・アドベンチャーの研究実践、普及活動に長く携わっていらした第一人者です。
 

 難波先生によるリーダーシップ・ワークショップ演習では、3日間、プロジェクト・アドベンチャーの様々なワークを体験しながら、「体験からの学び」について学びます。今回は最終日3日目の授業のレポートを写真と共にお届けします。
 

 
 朝の9時前。ポール・ラッシュアスレチックセンターの体育室に集まったLDC生たちは、授業が始まる前から集まって、何やらワイワイ話し合っています。本格的なボルタリング施設のある天井の高い開放的な体育室にはたくさんの風船が置かれています。スポーツウェアなど動きやすい服装に身を包んだ20名の受講生たちが始めたのは、1分間、20個全ての風船を落とさず、空中に上げ続ける「風船チャレンジ」。受講生の一人が考えてきたという「秘策」を説明し、役割分担をしてトライしますが、なかなかうまくいきません。次々落ちてくる風船を全員で必死に打ち上げる様子はとても楽しげですが、受講生たちの表情は真剣です。「外でこぼれ球を拾う人を増やしては?」など、様々な意見を取り入れながら修正していきますが成功ならず。
 

 
 9時15分、風船チャレンジの「正解」が分からず、もやもやしている受講生たちに、難波先生が「そろそろ始めましょうか」と声をかけ、「おはようございます」と授業が始まりました。まずは難波先生が、1日の活動内容を説明します。最終日のテーマは「信頼関係」。体験から信頼関係を学ぶとはどういうことなのでしょうか?早速、プログラムに入るのかと思いきや、「みなさん、風船のことが気になっていると思います。ヒントとなるワークがあるので、まずはそれをやりましょう!」と難波先生。そこで始まったのはグループでジャグリングを行うワークです。数人ずつのグループに分かれ、投げる順番を決めて、複数のボールを同時にキャッチボールします。1度に何個のボールをジャグリングできるか、どう投げればうまくいくのか、投げる順番はどうすればいいのか、試行錯誤しながら最適な方法を探ります。しばらくすると、各グループがそれぞれのやり方で複数のボールをジャグリングすることができるようになりました。
 

 
 難波先生はグループジャグリングの工夫の仕方や考え方を紹介しつつ、「今回はボールを使っているので、失敗が許されます。ですが、ボールの替わりに生卵を使ったとしたら、どうなりますか?きっと、投げ方も受け取り方も変わりますし、一度に投げられる数も変わりますよね。みなさんは人を扱うお仕事をなさっています。人をボールのように扱うのか、生卵のように扱うのかでどうやり方が変わるのか、なんて考えてみるとどうでしょうね」と、体験から学ぶうえでのヒントを投げかけます。難波先生は参加者の状態を見極めながら、“何百通りもある”というワークの中から最適なものをその場に合った形で提案します。ワークはどれも、楽しく取り組めるものばかりですが、ただ「楽しかった」だけでは終わりません。それぞれの体験から得られる学びについての解説や考えさせる問いかけが差し込まれるので、参加者はその都度はっとさせられます。
 

 グループジャグリングの後は、再び20人で風船チャレンジに挑戦。「誰が誰にパスするか明確になってる?」「掛け声はせーのGO!だとタイミングが合わないから、1234、5にしよう」などと、グループジャグリングで得られた学びを取り入れながら、投げる順番を決めたり、掛け声のかけ方を工夫したりして、何度か行ってみたところ、見事、チャレンジは大成功。一同、笑顔でハイタッチ!達成感に包まれました。
 

 
 休憩を挟み、次はいよいよ「信頼関係」を体験的に学ぶワークです。自分の感情を表現するためには安心安全の場が必要です。まずは、自分の身体のリラックス状態を体感しながら、力を抜いてペアとなった相手に腕を預けるワークや相手と動きを同調させるミラーリングのワークでウォーミングアップ。
 

 
 続いて、目をつぶって体を相手の方へと傾け、支えてもらうワークを行います。少しずつレベルを上げながら、自分のコンフォートゾーンから抜け出し、「相手に委ねる、相手から委ねられる」チャレンジを行っていきます。体の力を抜き、完全に相手を信頼して体を委ねることは、頭で考えた通りにはいかず、少しでも不安があると、体がこわばってうまくいきません。
 

 
 難波先生は言葉の重要性についても指摘します。「体を支えてもらっている人にフィードバックする時、『もっとちゃんとやって!』と言うよりも『もっと優しくやって』と伝えた方が気分よくできます。みなさんは、相手のモチベーションを高める言葉、相手を褒める言葉をどれだけ持っているでしょうか。行動も大切ですが、言葉も大切。リーダーとしては、相手を勇気づける言葉のボキャブラリーを増やすことも重要です」。受講生たちは、どうしたら安心して委ねられるか、どうしたら安心して委ねてもらえるか、互いに話しあい、様々なやり方を試しながらワークに挑戦。「怖いけど、支えられると安心感があるね」などと、感想を述べていました。
 

 最後は、「ちょっと危険なチャレンジですが、やってみませんか」という難波先生の声かけで、2列に並び、腕を互い違いに交差したところへ、思い切りジャンプして飛び込む、という大技に男性たちが挑戦。走り込み、勢いよく飛び込んだ体をたくさんの腕がしっかりとキャッチした瞬間、大歓声が上がりました。まさに「信頼関係」を体感するようなその光景は、とても印象的で、全員の心に刻まれるものとなりました。
 

 
 午前中の授業はここで終了。受講生たちは、「いつも同じメンバーにならないように」と、和食、中華、洋食…などと行先別にグループに分かれ、大学近辺のお店で昼食をとりました。1時間半の昼休み後は、模造紙を3枚張り合わせて大きな模造紙をつくり、そこに全員で、今回のチームのシンボルとなるロゴを描くワークに挑戦。全員がペンを持ち、あれこれとアイディアを出し合う中で、午前中の最後に行ったワークのように、みんなの腕の中に飛び込んでいる人の形を描いてはどうか、ということになり、全員の手が飛び込む人を支えるようなチームシンボルが描かれました。
 

 続いて、難波先生は「この3日間、グループとして関わりながら、理屈ではなく、どう見え、どう聞こえ、どう感じているのか、ということに意識を向けてきました。みなさん、1日目とは大きく変わっていると思います。みなさんが、感じたこと、気づいたこと、そしてこれから戻っていく自分自身のチームで大切にしたいことを各々書き込んでください」と促し、受講生たちは今回のワークでの気づきや学びを書き込んでいきました。最後は、周囲に1日目、2日目に各自が行ったワークツールを並べて全員で記念撮影をしました。
 

 15時からは、「みなさん、ずっとやってみたいと思っていたかと思いますので、ボルダリングやりましょう」ということで、マットを敷き、それぞれが自分のレベルに合わせてボルダリングに挑戦。初体験の人も多くいましたが、みなさん、下にいる人から「次は右足を赤いのに乗せて」などと指示を受けながら、上の方まで登っていくことができました。
 

 
 15時半ごろからは、一人一冊、真新しい小さなノートブックが配布され、「みなさんは、この後、今まで通りの日常に戻っていきます。そこで、この3日間で感じたこと、学んだこと、大切な気づきをいつでも思い出すことができるように、このノートに自分へのメッセージを書きとめ、自分だけのためのコーチングブックをつくってください。あと2時間ほどでそれを完成させ、提出することが最後の課題です。なお、コーチングブックは私が読ませていただいた後、お返ししますので、お手元で見返してください」と、最後のワークについて説明。受講生たちは思い思いの場所で、静かにノートづくりを行いました。
 

 
 約2時間後、体育室に集まってきた受講生たちは、グループに分かれて、お互いの「コーチングブック」の内容をシェア。3日間を振り返りながら自分はどう感じていたのかを細かく書き込んだという人、大切にしたい思いをキーワードにして書き込んだ人、自身の気づきを子どもにも伝えたい、と絵本を作ってしまった人。表現方法は人それぞれですが、みなさんこの3日間の濃密な学びを書き込んでいました。
 

 全員がノートを提出した後は、解散式です。「Life is Adventure.が僕のテーマです。明日からはまた、みなさんの旅が始まります。ぜひこの3日間を生かして旅を続けていってください」と難波先生。最後は「See you later, Alligator.」と全員で元気よく挨拶し、3日間の授業が終わりました。これでLDCの1年間の授業は全て終了ですが、Life is Adventure.学びの旅にも終わりはないようです。