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  • 2021.11.27
  • 授業
  • 人事のリアルを実務家から学ぶ 「戦略的人事実務論」

10月16日(土)8時50分~12時25分まで、1年生の戦略的人事実務論の第3、4回授業が行われました。戦略的人事実務論は、最新の人事実務を、理論も引用しつつ、実例に基づき、体系的に学ぶことを目的にした授業です。講師は日本企業、外資系企業の人事で豊富な実務経験をお持ちの櫻井 功先生です。

 
この日の授業の前半は科目名にもなっている「戦略人事」がテーマ。「戦略人事」とは、経営戦略、事業戦略に紐づいた人事のありかたで、1997年に米国ミシガン大学教授のディビッド・ウルリッチが提唱した考え方です。ウルリッチは人事の役割を、企業経営に何をもたらすか、という視点から再定義しました。授業ではこのウルリッチの「人事の役割」について、櫻井先生自身の実務経験を交えつつ解説。その後、デジタル技術の進歩によって大打撃を受け、生き残りを賭けた事業変革を迫られた写真フィルム業界の代表的企業、Kodakと富士フィルムのケースを取り上げ、このような状況下において「戦略人事」的な観点でどのような施策が考えられるかをグループ討議。人事として経営に資するために何ができるのかを考えます。

 
グループ討議後は「戦略人事」として人事が考えるべきポイントについて、一つ一つ具体例を挙げながら解説。また、大きな環境変化にさらされる今、日本企業にも「戦略人事」的な考え方が必要であることを強調しつつ、日本企業の人事部門が戦略的になりにくい要因を、外資系企業、日本企業、様々な企業での経験から具体例を交えて語ります。

 
続いて、紛らわしい「戦略人事・人材戦略・人事戦略の関係性」についての概念理解と「戦略人事」を支える人事機能としてのHRBP(人事ビジネスパートナー)について、櫻井先生の経験に根差した「着任後、最初の3~6カ月で行うこと」をベースに解説。実務家には「すぐにでも使えそう」な実践的な知恵の詰まった講義となっています。

 
授業後半は、「人事制度」をテーマにレクチャー。「等級制度」「評価制度」「報酬制度」、それぞれの「人事制度」の目的や機能などについて理解を深めていきます。その中で櫻井先生は、これらの人事制度は、相互に有機的に関係している「エコシステムである」ということを強調し、その理由を次のように語りました。「2000年代の初め頃にGEで人事の担当をしていた際、数多くの日本企業の人事の方々から『GEの9ブロックを導入したいがどうすればいいか』と相談を受け、とても困惑しました。9プロックとは、バリュー(企業理念の発揮度)とパフォーマンス(業績)の二軸のマトリクスを9象限にわけ、従業員をプロットするGE独自の人事評価システムで、当時は世界的に注目を集めていました。しかし、これはあくまでも、完全なジョブ型雇用制度、つまり年齢も勤続年数も関係ない雇用の仕組みを取っていたGEだからこそ機能していた評価システムなのです。日本企業でこの9ブロックを導入するのであれば年功序列意識を捨て、年齢逆転人事を本気でやる覚悟がなければ機能しません。そのためには、等級・評価・報酬の制度のみならずそのプロセスまでもが相互に矛盾なく設計されている必要があるのです。」

 
最後は、多くの日本企業が採用してきた「職能資格制度」と欧米で多く導入されている「職務等級制度」、その中間的な制度とされている「役割等級制度」との違いについて、実際にはどのような運用がされているか、といったことも含めて解説。そのうえで、年功型・職能資格制度を続けてきた「日本型雇用」の問題点を鋭く突き付けます。

 
櫻井先生は、人事実務の一つ一つについて、「経営に資する」という観点で、丁寧に紐解きます。制度の話をしても、単なる概念ではなく、社内で運用した際にどうなるのか、実際に日本企業ではどんな実例があったのかなど、リアルなエピソードを交えて解説するので、概念の解説も非常に血の通ったものとして理解ができるのが、実務家ならではの授業となっています。

 
この授業の狙いを、櫻井先生は次のように話します。「実務家として、人事現場の事実を知ってほしい、という思いがあります。理論的なことは、本を読んだり、大学の先生やコンサルタントの方々から学んだりすることもできます。しかし残念ながら、彼らは事業会社での実務の経験、とりわけ外資系企業、海外企業での人事運用の現実をご存じないので、どうしても事実から乖離した話になってしまうように思います。よくある例として『外資系企業では、職務記述書(JD:ジョブディスクリプション)に基づくジョブ型雇用なので、自分のジョブとしてJDに明記されていない仕事を誰もやらなくなる。だからジョブ型はダメだ』といった主張をされる方がいますが、実際はそんな単純なことではありません。確かにJDベースでの仕事はその傾向を持ちますが、そのために多くの企業は『チームアンドコラボレーション』をValueや行動規範という形で規定し、あるいはコンピテンシー評価項目などに含めて、皆で協力し合い仕事の取りこぼしがないような行動を促す建付けを作るわけです。職務は企業の業績を上げるために行うのですから、企業行動として当然のことです。みなさんにはそうした事実を知っていただき、実質的に現場で行われていることをベースにトータルとしての人事というものを理解していただきたいです」

 
そして受講生に向けて次のようにエールを送りました。

 
「理論は大切ですが、ものごとの全てを理論だけで説明できるわけではありません。特に『人の感情』を扱う人事という仕事は理論や理屈だけで進めることは不可能です。様々な現実のアプローチを知ることにより最終的には自分なりの持論を持ち、事実とデータを見て、現場に即した判断ができる人事パーソンになってもらいたいと思います。この授業では、人事プロフェッショナルであるみなさんに役立つ知識をできる限りお届けしていきます。子どもたちの将来のためにも、日本企業はもっともっと国際競争力を高めていかなくてはなりません。昔のようにGDP世界1位を目指すべきだ、とまでは思いませんが、諸先進諸国と比較して、今や低賃金国となってしまい、管理職を目指す人の割合も低く、従業員のエンゲージメントも低い現状では、競争力を高めようがありません。働く一人ひとりが幸せになれるような企業経営に寄与できる人事プロフェッショナルが増えていくことを願っています」

 
刻々と状況が変化するビジネス環境下において、現場には日本の人事が対処するべき問題が山積しています。人事はどのように経営を支えていけばいいのか、人事はどのようにバリューを発揮していけばいいのか、まだ答えもなく、教科書もない現場の知恵を学ぶ授業はまだまだ続きます。