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  • 2021.05.28
  • 授業
  • 医療分野に特化した選択科目 「医療とリーダーシップ」

2年次の選択科目である「医療とリーダーシップ」の授業が4月17日(土)から始まりました。担当は国際医療福祉大学成田看護学部准教授の保田江美先生。人材開発研究、医療職の人材マネジメントがご専門です。授業は土曜日8時45分~12時25分まで全14回7日間で行われます。

 
「医療」分野に特化した授業ということで、受講生は医療機関勤務の方と、看護職の方の2名。医療・看護・福祉の現場での実践経験が受講の前提条件とされており、LDCの授業の中でも、特定領域に特化した科目である「医療とリーダーシップ」。いったい、どのような授業が進められているのでしょうか。5月8日(土)第3回、第4回のオンライン授業の様子をお伝えします。


受講生2人のオンライン授業ということで、授業というよりも研究室のゼミのようなアットホームな雰囲気です。保田先生も「3人の授業ですので、気軽に発言できるよう、和やかな雰囲気づくりを心がけています」とのこと。最初に授業の流れについて説明があった後、保田先生から「お二人が医療・看護・福祉以外の大学院を選んだ理由を話していただけますか?」との問いかけがあり、それぞれがLDCに入学した動機を共有するところから授業がスタートしました。


実は保田先生自身、看護の世界から人材開発、組織開発について学ぶ大学院へ進学した経歴を持っています。医療現場で看護師として10年ほど働いていた保田先生は、看護現場での仕事に行き詰まりを感じるようになり、バーンアウトしかけたことがありました。「看護現場独特の硬さ、重さをどうにかしたい。でもその答えは看護の世界には無いのではないか。一度外に出て、外側から見てみたい」と感じていた保田先生。そんな時、中原先生の書籍に出会い、「この分野についての学びを深めたら、看護現場が変わるのではないか」と可能性を感じたことから、中原先生の下で学び始めたのだそうです。


「学び始める前と後では、看護に対する見方が変わった」と保田先生は話します。「『看護』という言葉は誰もが知っていても、その内情は一般社会ではまったくと言ってよいほど知られていないため言葉を尽くしての説明が必要であること、勝手に『看護の現場の人材開発は遅れている』と思っていたが、むしろ進んでいることも多かったことなど、現場で感じていたものとは異なる見方ができるようになっていきました。」


受講生の一人、医療機関勤務の方は、「今、所属している医療機関の同僚たちはほとんど国家資格を持った専門職の方々ばかり。自分もなにか組織の役に立てる専門性を身に着けたいと大学院入学を決めた。地方に住んでいるので東京でバリバリ仕事をしている方々との学びは刺激になっている」と話しました。


もう一人、看護師の方は、「長年、看護師を続けてきた。やはり看護の世界を変えたいという思いで、看護の大学院に行こうとしていたが、教育を勉強しようと考え、慶應MCCの講座に通うなど、模索していた時、LDC開講を知り、飛び込んだ。経営や人事の用語や概念が分からず、苦労しているが、普段は絶対に話す機会のないような“カタギ”(一般企業)の方々と学ぶことで、ものすごく視野が広がった気がする」と話していました。


保田先生からは、「私も学びはじめの2年間は分からない言葉ばかりで、ゼミの人たちの議論にはとても入れない、と思っていました。ですが、勇気を出して発言してみると、看護の視点で述べた意見が、他の方々にとっては新鮮なようで、『気づきがあった』と言われることも。気後れする必要はないと思います」とのアドバイスがありました。



続いてそれぞれが読んできた論文についてのレポート発表とディスカッションです。
初回の授業で、この授業の進め方について話し合い、それぞれのファイナル・プロジェクトに生きるような内容を取り扱うことになった、とのこと。受講生が2人だからこそできるカスタマイズ授業です。


扱われた論文は「看護中間管理者の育成に関する文献研究」「副看護師長の新規着任時の思いと役割認識」、「Nurse turnover: a literature review(看護師の採用・定着・転職、とそれにまつわる看護の質についての文献研究)」。いずれも看護分野に関する専門的な論文です。


看護現場には、看護師が段階的に能力を高められるよう、精緻に設計された教育プログラム「クリニカルラダー」が用意されているなど、他の組織に比べても、人材育成の仕組が整っている印象があります。ですが、看護管理者育成は、整備され始めたものの、まだ発展途上のようです。看護の世界でも重要看護中間管理職の44%が「(中間管理職に)なりたくなかった」と回答している(日本看護協会全国的調査2010 年)とのことで、管理職離れは看護の世界でも共通の課題となっているようです。また、看護師の離・転職問題を扱った論文レビューでは、「看護師一人あたりの患者数が増えるごとに、燃え尽き症候群になる確率が23%、仕事に対する不満を持つ確率が15%増加する」などといった記述があり、コロナ禍において看護師不足が現場にもたらす影響の大きさを思わずにいれませんでした。


ディスカッションでは、「看護師は『想いと願い』という言葉を多用する。医療現場は、患者だけでなく、看護師の『思いと願い』を受け止める必要あるかもしれない」「医療従事者のキャリア選択は、一般企業の人たちとは大きく異なる気がする。大学、専門学校などでプロフェッショナル教育が行われるためか?」など、論文の内容を踏まえ、それぞれが職場で感じる問題について話し合いました。



続いて、保田先生によるレクチャーです。テーマは「組織風土と組織文化の違い」。混同されやすい「組織風土」と「組織文化」の概念ですが、「組織風土=個人が知覚する組織の特性や価値観(個人差があるもの)」、「組織文化=組織の成員によって共有されている価値観や行動規範並びにそれを支えている信念(個人差を越えても共有されるもの)」といった違いがあり、それぞれ「組織風土」はモチベーション理論を基盤としている一方、「組織文化」はコンティンジェンシー理論(状況に応じた組織形態があるとする理論)などの組織論を基盤としている、という違いがあるとのこと。


これを踏まえて、「医療×組織風土」、「医療×組織文化」など、医療と組織に関わる様々な論文を紹介し、理解を深めていきます。ディスカッション時に話された話題のひとつは、「看護師組織に関わる研究は多いのに、『医局の組織文化』、『医局の組織風土』など、医師と組織に関する研究はほとんどない」ということ。「医師と組織、という研究自体が、そぐわないことだとされているのではないか」などという意見が交わされていました。


保田先生は、「これまでの1年間LDCで学んだ様々な概念は、一般企業の文脈で語られていたものです。この授業ではそれらの概念を、医療、看護、福祉の専門領域で、もう一度捉え直し、リフレクションしていくことを主眼においています。私のレクチャーについては、医療の文脈に寄せた形で概念や知識のインプットを行うだけでなく、お二人にとって知的刺激になるよう、様々な論文を紹介していきたいと考えています」と話します。


最後はそれぞれが進めているファイナル・プロジェクトに関して、疑問に思っていること、不安に思っていることを保田先生に相談する相談会。医療機関の中で研究する際に直面する課題を知り尽くした保田先生ならではの細やかなアドバイスは、二人にとって非常に心強いものとなるのではないでしょうか。


保田先生は、医療関係者がLDCで学ぶ意義について、「組織の外に出てみると、共有されている文化も言葉も全く違うので、戸惑いますし、すごく大変だとは思います。ですが、その分、新たな発見があったり、新鮮な気づきが得られたりして、戻った時に、自分にとっても、組織にとっても、いい影響をもたらすのではないかと思います。迷っている方は、ぜひ勇気をもって目指していただきたいです。お待ちしております」と話しました。